【簡単!サイエンス】なにが凄いか、ノーベル賞:CRISPR/Cas9ゲノム編集編
オープンキャンパスとか、研究室見学とか行くと「タンパク質の研究」って出て来ない?いやいや、ぼくら、医療とか創薬とか(あるいはバイオテクノロジー)に興味あるのに何なんそれ?干されてるの?――ぼくはそう思ってたww
そんな疑問を現役の理系研究者が、3min(1500字)で解決します!
ちなみに、これを知ってると、2020年、今年のノーベル化学賞「CRISPR/Cas9ゲノム編集法」が何がどうして凄いのか――それも一緒に分かっちゃう。初心者向け解説だからご安心!
<ダイジェスト>
体が世界だとして、
組織(心臓や脳など)が国家、
細胞が会社で、
タンパク質が社畜である。
なお、細胞小器官(オルガネラ)が部署である。
まえがき・ざっくり結論
タンパク質って言ったら、「肉!あと筋トレで超大事」――栄養学の普及は凄いから、生物学も見習うべき。だけど、キミが生物学の大学を目指す or に所属する学生だったら、新しい「生物学でのタンパク質」という立ち位置とイメージを覚えましょう。これを知ったら、今までのつまらない授業や、酵素学がちょっとだけ楽しくなるかも。今後の生物学発展の基盤、つまりは薬学・医学を加速するバイオテクノロジー、それがCIRSPR/Cas9ゲノム編集法さ。ぶっちゃけ5Gである。
社畜ロボ戦隊: タ ン パ ク 質 !
タンパク質は機能的である。
とは某大学 生物学部で有名だった言葉だ。
ぼくの言葉だけどww
栄養学では、タンパク質そのものが重要な栄養源であるという理解だけれど、生物学はちょっと違う。タンパク質と一纏めにしてはいけない。体の中には何千、何万種類のタンパク質があって、固有の名前を持っていて――体の中で、別々の仕事をしている。
体が世界だとして、
組織(心臓や脳など)が国家、
細胞が会社で、
タンパク質が社畜である。
なお、細胞小器官(オルガネラ)が部署である。
体(世界)のほぼほぼ最小単位が、タンパク質(サラリーマン)なのである。
よく生物学部に来る学生が「遺伝子に興味がある」という、それは病気の原因になるからと。よく分かってる!でも今日、この記事を見ているお得なキミはその一歩先に行こう。
ぶっちゃけ、遺伝子は何もしない。
遺伝子変異は病気を起こさないのである。
遺伝子は存在そのものに意義があって、実権はあまりないのだ。遺伝子はよく体の設計図だと言うけれど、厳密にはタンパク質の設計図である。
遺伝子に変異が起こると、タンパク質の設計にミスが入る。すると、タンパク質が仕事に失敗する。次に他タンパク質が戸惑ったり、過剰に働かなきゃなくなったり、時には喧嘩しだす――要は「人員ギリギリの会社でサラリーマンが一人失敗すると、連鎖して、会社は滅ぶ、あるいは起死回生を目指して何か変なことしでかす」ってこと。
遺伝子変異は、その設計してるタンパク質Aの挙動を変えるので、最終的に、細胞が死んだり変になって――組織が狂う、そして病気になるのだ。
*ちなみに、このスーパー社畜リーマン:タンパク質たちの中で、「化学反応」という特殊技能を持つ能力者のことを「酵素」という。酵素食ってなんの意味があるのだろう。アイツらは体で働くものであって、胃に入れたら溶けるだけである。胃の中では、ただのタンパク質。ぶっちゃけ栄養源と化す。
薬は、だいたいの場合は、このタンパク質の挙動を戻すものである。または連鎖的なタンパク質たちの失敗を途中で止めようとするものである。遺伝子変異がタンパク質を変異させて、悪影響を波及させる。タンパク質の性質・機能を調べるってことは、どうやって病気になるか、タンパク質の連鎖的な失敗って何かを調べることと同義である。タンパク質の構造を調べるってことは、どの部分を修正したら異常が治るか調べることと同義である。
タンパク質の性質を解明して、薬のターゲットを決めて、タンパク質の構造を解明して、修正するよう薬をデザインするのである。
どう?
生物学と薬学がどう繋がるか見えてきた?
ちなみに、最近、生物学は、遂に、薬学を超えそうである。そんなオマケ話。
それがノーベル賞: CRISPR/Cas9だ。
何が凄いかノーベル賞:CRISPR/Cas9
2020年のノーベル化学賞は「CRISPR/Cas9ゲノム編集法」である。
エマニュエルさん、ジェニファーさん、おめでとう!
このCRISPR/Cas9(クリスパー/キャスナイン)が表舞台に出始めたのは、僕がまだ前期大学院生だった頃。ぶっちゃけ、あの時から「これはノーベル賞取る」って、誰しもが思ってた。何が言いたいかって言うと「iPS細胞」と同じくらいのレベルだってこと。
遺伝子はタンパク質の設計図である。そして、究極の個人情報だ。だから僕らの体はそれはもう厳重に、アホみたいにロック掛けてる。遺伝子情報を弄るなんて物凄く大変だ。当時は、専門業者に依頼して、300万円、1年以上必要だった。個人じゃ無理。
CRISPR/Cas9とは、そんな遺伝子改造を、大学生レベルでも一瞬できるようにした魔法である。専門家が300万円で1年が、今や、大学生が10万円以内で1週間だ。ぱねぇ。
もちろんこれ、まだ生体の生きている僕らレベルで使うのは、ちょっと難しい(でも出来るようになっちゃった!専門分野じゃないけど、僕でもできちゃう)。恐ろしい気持ちは置いておいて、どれくらい革命的なテクノロジーであるかは分かってきたんじゃない?このバイオテクノロジーは大きく2つの理由で非常に有益だ。
①臨床的視点:生物学が薬学を超えて、医学へ
環境、老化、生活習慣。長い人生の時間の中で、多様な原因が僕らの遺伝子にエラーを発生させる。そうして勝手に病気になる。正常細胞が急に悪性腫瘍になる。あるいは神様がそう設計したのかもしれない。薬学はそのタンパク質変動と影響を補正・修正しようと頑張ってきた。でもCRISPR/Cas9はそんなことしなくても、数十年の人生で溜まってきた遺伝子変化・エラーを直接修正できる。出来るような未来にしちゃうかもしれない。
②基礎的視点:今後の科学発展の基盤になる(というかもうなってる)
これを説明するには「対照実験」という研究の基礎原則を知らなきゃいけない。詳細は次回にするとして、ここでは簡単に!「対照実験」とは if の世界を作ることである。酷い言い方するけど許してね。
<例>
何の変哲もないアナタの日常がありました。それとは別にクラスメートAを消し去った if の日常がありました。if の日常では、アナタは恋人と付き合っていません。さあ、クラスメートAはどんな人間だったでしょう?
⇒ 答え「アナタと恋人の関係を近づけた何か」
詳細は、以下のいずれか。
・アナタを説得して、恋人に近づけたアナタの友人
・恋人を説得して、アナタに近づけた恋人の友人
・偶発的に、アナタと恋人が近づくキッカケになった他人
これが、対照実験。「なにかしたモデル」と「なにもしてない普通のモデル」の2つを比べて何が起こったか比較して答えを推測するゲーム。これをちょっとずつ変えながら繰り返していって、答えの正確性を高めていく。登場人物は全部タンパク質A, B, Cに置き換えてみよう。比較するためには、遺伝子改変や消去(特定のタンパク質を消去・改変する)が必要不可欠である。CRISPR/Cas9はこれを簡単に迅速にする。条件を変えた2つのモデルを比較する、その年間トライ回数を増やすことが出来る。
要は、科学の進歩が加速するってこと。
まとめ
今回の基礎生物学のキーワードは、「タンパク質」と「対照実験」である。ぶっちゃけ、これって研究室で、実際に研究者修行をはじめてから、大学4年生が、はたと気付くレベルである。キミらもうそんなこと分かっちゃったんだぜ。これだけ知ってれば、研究者のスタートラインだ。
<まとめ>
・世界(体)を知るには民(タンパク質)を知れ
・IF の世界線を観測し、そいつの思惑を暴け タイムリープ!
・CRISPR/Cas9はこのIF世界構築を簡単にする
+遺伝子治せば、究極、病気にならん、生物学が全てを越える かも?
遺伝子を弄るってSF世界――デザインチャイルド――あれが夢じゃなくなった瞬間
最後に、補足。。
生物学部は、生き物の成り立ちを解明する学部である。
体が世界だとして、
組織(心臓や脳など)が国家、
細胞が会社で、
タンパク質がサラリーマンである。
なお、細胞小器官(オルガネラ)が部署である。
解明アプローチは5つ、世界から見るか、国家から見るか、会社から見るか、部署から見るか、サラリーマンから見るか――ちなみにぼくは「部署」を見ている研究者だ。「部署」がどうやって管理・維持されてて、どんな緊急マニュアルを持っていて、どんなストレスに対策できてないか。「部署」にはどんな特性の「サラリーマン」が働いていて、「部署」は「会社」が違うとどう違うのか?同じなのか?そういう研究者。
キミは、どうやって世界を解明したい?
ではではー。